普段なら満天の星空なのだが、今夜は金星だけが瞬いている。雨でも降るのだろうかと一二三は思った。

空一面に星々がきらめく

闇のさなかに、油を塗ったような満天の星が光る

花束を解きほぐしたように大きな星々が燦めいている

冬の空の誇りなるオリオンが微妙な傾斜で三つ並ぶ

入道雲が水平線の上へ拡がってザボンの内皮の色がして、海も入江の真近までその色に映っていた。

藤色の空に物憂い月が出て居る。卯の花のように白い白い月が。

庭じゅうに月がさしている。その中を歩いたら髪に燦く液体がねばりつきもしそうな光波につつまれ、円い躑躅（つつじ）や檜葉（ひば）がくっきりと黒い影をしたがえて鎮まりかえっている。樹や芝生が夢幻的に、生あるもののように思えた。この月夜には、人間の霊魂も遠くたやすく伝わりそうだ。

黒玉といって、まったく殻をやぶらずに、そのまま、落ちてしまう例もある。黒玉を打ちあげたらば煙火師は土地にいられなかった。それほど絶大な恥辱としていた。

春の紺碧（こんぺき）を斑（まだら）にしている白い雲が明るく、まばゆく、うごいている。