電灯の傘が暗い部屋の壁に漆黒の影を落としている。

闇の粒子が僕の網膜に不思議な図形を描いた。描かれた図形はしばらくすると音もなく崩れ、別の図形が描き出された。水銀のように静止した空間の中で、闇だけが動いていた。

（消灯した部屋でDVD鑑賞）パソコンの小さく発光する画面は、自宅のテレビで見ている時よりも、むしろ映画館にいる時のような没入感をもたらした。

高い天井の真ん中に小さな明かり取りの窓のようなものが幾つか見えた。しかし月はまだ高く上がっていなかったので、明かりと呼べそうなものはそこから入ってこなかった。仄かな街灯の明かりが屈折に屈折を重ねた末にほんの少しだけその天窓から忍びこんでいたが、殆ど何の助けにもならなかった。《…略…》やがて何かの加減で、部屋にさしこむ光がほんの少しだけ明るさを増した。月が上がってきたのだろうか？あるいは街の光が明るく灯り始めたのだろうか？

幽霊屋敷レベルの暗さ

自分の影を両側の街燈が次には交互にそれを映し出した。後ろから起って来て前へ廻り、伸びて行って家の戸へ頭がひょっくり擡（もちあが）ったりする。慌（あわただ）しい影の変化を追っているうちに自分の眼はそのなかでもちっとも変化しない影を一つ見つけた。極く丈の詰った影で、街燈が間遠になると鮮（あざや）かさを増し、片方が幅を利かし出すとひそまってしまう。「月の影だな」と自分は思った。見上げると十六日十七日と思える月が真上を少し外れたところにかかっていた。自分は何ということなしにその影だけが親しいものに思えた。

三和土たたき に置かれた 行灯あんどん が男の顔を十分に照らし上げていたが、度の強い眼鏡がまっしろに光を 孕はらんでしまい、表情はわからなかった。

風景を埋めてゆく影

ぱっと、店内の電燈がついた。大理石のテーブルや、鏡をはめこんだ柱が、俄に夜の銀座らしく輝き出した。

四角い光を切り取って据えた様な縁側の明るさ

天井から下がった骨董品のようなシャンデリア

窓のない廊下は曖昧な明るさだった。

雨は上がり、すりガラスの窓が一面銀色に輝いている

掃除の行きとどいた朝の郵便局の光線は、海の底のように静かで、平和であった。

廊下はきょうも不相変（あいかわらず）牢獄（ろうごく）のように憂鬱だった。