（不審な行動を問い詰めるといきなり号泣する妻を目の前にして）謙作は不意に自分の顔の冷たくなるのを感じた。彼は起き上り、何か恐ろしいものに直面したよう、波打つ直子の背中を見下ろしていたが、 少時 すると彼は自分の心が夢から覚めたよう却って正気づいた事を感じた。《…略…》彼はとにかく自分達の上に恐ろしい事が降りかかって来た事を明らかに意識した。

「どうしてですか」 　日下が重藤の目を覗き込む。

「おまえがもらったわけではないか？」　蜜柑（人名）の身体から無色透明の、見えざる触手、植物の長い蔓のようなものが伸び、自分の頰や首筋を探ってくるような気分になった。王子の本心を、心の中を見透かすために、撫でてくる。

もう、嘘でもいいから謝ってしまおうか……。 　言葉の凶器に打ちのめされ、すべてがどうでもよくなるような敗北感があった。

探りを入れて質問する

腰が抜けるほど叱りつける

泥土（どろ）を投げつけられるような誹笑（そしり）を受けた

不平の言葉が、抜き差しならない反逆の魂として転がる

図星をさされて、三五兵衛はおどろいた。

古巣の編集局を踏みつけにするかのように罵詈雑言の限りを尽くした。