柳（やなぎ）が、気ぜわしそうにそのくせ淋（さみ）しく揺（ゆ）れる。

風雨は激しく、窓外はまるでつなみのような音をたてて樹木が鳴っていた。

ばさっと、庭先の連翹（れんぎょう）の花が、嵐みたいに揺れた。

蕭々と枯葉がそよぐ音

（杉林は）風のせいなのか、左右に揺れていた。そのたびに葉が音を立てる。巨大な動物が足踏みをして、体毛を震わせるかのようだった。

西風がわずかに乾いた砂をさらさらと掃くようにして吹いている。

外の道を、秋風が、さあっと、木の葉を掃いて行った。

往来には砂ほこりが立つらしく風が吹き始めていた。

あるかないかの風が花房をかすかに揺する

（崖にぶら下がり中の風）風に揺られる。さっきまで頰に心地好かったその風が、悪魔の使いのように感じられる。

ポーっと鋭い汽笛を鳴らす

針が落ちたような小さな音

誰も電話には出ない。電話は死を予感した象のように何度か狂おしく鳴き叫び（32回というのが僕の数えた最高だ）、そして死んだ。

畳がびっしょり水を含んでいるかのように、部屋は静まり返っている

手が震える。必死にイアフォンのコードを引っ張り耳に突っ込む。麻薬中毒がドラッグを求める姿と似ていた。不安感が自分を押し潰す前に、クスリを投与しなくてはいけない。クスリは耳から注入する。ウォークマンの再生ボタンを押した。 　病院の名は、「ビートルズ」だ。この場合の薬剤師はきっと、「ジョージ・ハリスン」で、薬の名前は、「HERE COMES THE SUN」だった。 　ボリュームを上げ目を閉じ、じっと聴く。「It's All Right」と繰り返される。豊田はそれを自分の中で何度も繰り返した。「大丈夫だ。大丈夫だ。It's All Right」と繰り返し、不安感を取り除いていく。二回同じ曲を聴く。

（糸薄は）細い葉が一株ずつ美しく噴水のような形に拡がっていた。

百合（ゆり）と山査子（さんざし）の匂いとだけ判って、あとは私の嗅覚（きゅうかく）に慣れない、何の花とも判らない強い薬性の匂いが入れ混って鬱然（うつぜん）と刺戟（しげき）する。

松のざわめき

知らない草穂が静かにゆらぎ、少し強い風が来る時は、どこかで何かが合図をしてでもいるように、一面の草が、それ来たっとみなからだを伏せて避けました。

小波さざなみ のように木目が走っているうすよごれた灰色の木の板

（ノートで扇ぐ）くたびれた表紙のノートが、かすかな風を生み続けている。

風が熱い水飴のようにねっとりと肌にねばりつく

（蝶の標本を燃やす）蝶を箱から出して、庭で火をつけた。メラメラと紙のように焼けていく羽から銀色の粉が飛び散った。それは風にとばされて消えてしまった。

頭上でときおり電線が風になぶられて音を立てた。

風も、どこから来たのか、どこかものすごく遠いところか、ものすごく近いところか、わからないくらいに自分を丸ごと取り巻いているように感じられる。恐ろしい臨場感だった。