どこに円盤があるってんだよー、と笑いまじりに私が言いかけたとき、眼前の暗い町並みとネオンのがたがたした切り絵と空の区切りのラインから、ちょうど目線のあたり、夜空を切りわけるようにツーっと、左から右、光る飛行機雲のようなものが横切った。 はっとした。 それは私たちの目の前の景色の真ん中あたりで、地上のどのようなマシーンよりも優雅な止まり方でぴたり、と止まって、 ぴかーっと輝いて、消えた。 私が今までに見たどの光よりも 凄烈 だった。想像して言うなら、苦しみのうちに胎道を通りぬけて、初めてこの世に生まれ出る瞬間のまぶしさのようだった。それくらい美しく、清らかで、くりかえせない発光だった。いつまでも見ていたかった。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 ページ位置:55% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......をついて、暗い木々の間に立った。ものすごく濃い、みどりのにおいを発散していて、苦しいほどだった。 夜空はただそこにあって、街あかりを映してぼんやり光っていた。 どこに円盤があるってんだよー、と笑いまじりに私が言いかけたとき、眼前の暗い町並みとネオンのがたがたした切り絵と空の区切りのラインから、ちょうど目線のあたり、夜空を切りわけるようにツーっと、左から右、光る飛行機雲のようなものが横切った。 はっとした。 それは私たちの目の前の景色の真ん中あたりで、地上のどのようなマシーンよりも優雅な止まり方でぴたり、と止まって、 ぴかーっと輝いて、消えた。 私が今までに見たどの光よりも凄烈だった。想像して言うなら、苦しみのうちに胎道を通りぬけて、初めてこの世に生まれ出る瞬間のまぶしさのようだった。それくらい美しく、清らかで、くりかえせない発光だった。いつまでも見ていたかった。 それにつきた。 もう言葉ではなかった。いつまでも見ていたい、きれいな白だった。「すごい! すごい! すごい!」 私は言った。「すごかったね!」 弟はうなずいた......
単語の意味
優雅(ゆうが)
眼前(がんぜん)
景色(けしき)
夜空(よぞら)
目線(めせん)
優雅・・・上品で美しいこと。気持ちや雰囲気にゆとりがあるさま。
眼前・・・目の前。その人が見ているすぐ目のところ。目前(もくぜん)。
景色・・・風景。眺め。とくに、自然の眺め。
夜空・・・夜の空。
目線・・・1.視線。目と、目が見ようとしているモノとを結ぶ線。目が見ている方向。見つめている方向。
2. その立場における、ものの考え方やとらえ方。
2. その立場における、ものの考え方やとらえ方。
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どこに円盤があるってんだよー、と笑いまじりに私が言いかけたとき、眼前の暗い町並みとネオンのがたがたした切り絵と空の区切りのラインから、ちょうど目線のあたり、夜空を切りわけるようにツーっと、左から右、光る飛行機雲のようなものが横切った。 はっとした。 それは私たちの目の前の景色の真ん中あたりで、地上のどのようなマシーンよりも優雅な止まり方でぴたり、と止まって、 ぴかーっと輝いて、消えた。 私が今までに見たどの光よりも 凄烈 だった。想像して言うなら、苦しみのうちに胎道を通りぬけて、初めてこの世に生まれ出る瞬間のまぶしさのようだった。それくらい美しく、清らかで、くりかえせない発光だった。いつまでも見ていたかった。
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