喪失感の中、ただ時間だけが無音の微風のごとく、僕の周りを吹きすぎて行く

季節が一回りする

（久しぶりに会った母は）一緒に暮らしていたときより、やっぱり 老けた。私は時間のないような気分で生活しているので、母に会う度にふいにきちんとした未来に、タイムマシン的にひゅっと運ばれた気がする。母によって初めて時間の経過を認識する。

死人は、その死んだ後（のち）に於ても、その無感覚の感覚によって、時間の流れを感じているとすれば、一秒時間も、一億年も同じ長さに感じている筈である。又そう感ずるのが死後の真実の感覚でなければならぬので、すなわち一秒の中（うち）に一億年が含まれていると同時に、宇宙の寿命の長さと雖（いえど）も一秒の中（うち）に感ずる事が出来る訳である。この無限の宇宙を流れている無限の時間の正体は、そんなような極端な錯覚、すなわち無限の真実の裡（うち）に、矢の如く静止し、石の如く疾走しているものに外ならないのである。

（１２時）時刻は日付を越えようとしている

戦前から使われているような古いソファーだったが座り心地は良かった。やわらかくもなく固くもなく、体になじむ。人の手のひらのような匂いがした。

目を閉じるといろいろな音が聞こえてきた。博士のいびき、毛布の衣擦れ、氷の溶ける気配、ルートの寝言、ソファーの軋み。二人の発する音たちは、発熱のアクシデントを忘れさせ、私を安堵させ、眠りに導いてくれた。

きょとんとするほど速かった。

永遠はどこまでも伸びる一本の長い棒だ。

緩やかな水の流れのように時が彼の体を通り抜けていく