入道雲が水平線の上へ拡がってザボンの内皮の色がして、海も入江の真近までその色に映っていた。

若い生姜（しょうが）の根ほどの雲の峯

午後の光にかがやいた湾のむこうに大きな入道雲が金色に縁どられながら 湧いていた。雲はなぜか空の宮殿のように白く巨大だった。

動かない海と、屹立した雲の景色は十四歳の私の眼に壁のように照り輝いて写った。

夏のような立派な雲の峰が東でむくむく盛りあがり

うす白い空を軽い煙のような黒雲が、あわただしくちぎれては消えて行く。

（好転しない病で絶望と倦怠の日々を過ごしており、療養のため）日を浴びるときはことに、太陽を憎むことばかり考えていた。結局は私を生かさないであろう太陽。しかもうっとりとした生の幻影で私を瞞（だま）そうとする太陽。おお、私の太陽。私はだらしのない愛情のように太陽が癪（しゃく）に触った。

欠けてゆく月がはるか天空に小さく強く光っていた。

空が抜けるような青さに澄み切る

（月は、）深く考え抜かれたあとの句読点のように、あるいは宿命が与えたほくろのように、それは無言のうちに揺らぎなく、夜空のひとつの場所に自らの位置を定めていた。