前を向いても上を見上げても、高層ビルのせいで空が小さく見えるニューヨーク

視界の果てまで並ぶ建物、目も眩むようなその数に、まるで山脈みたいなその圧倒的な重量

ビル群の谷間へ埋め込まれたような、お初天神

高いビルに囲まれ、魚になったようにぐるりと世界が閉じられて見えた。

スモッグでどんよりとした東京の空

翼のように波打つ峰をひろげる連山

碁盤の目のような都市

崩壊したようなさびしい表情に満たされて涯（はて）もなく君の周囲に広がっていた。

内側に闇を含んだように緑の濃い山の頂

（山から見下ろした夜明けの風景）中の海のむこうから海へ突き出した連山の頂が色づくと、美保の関の白い燈台も陽を受け、はっきりと浮び出した。間もなく、中の海の 大根島 にも陽が当り、それが 赤あか 鱏えい を伏せたように平たく、大きく見えた。村々の電燈は消え、その代りに白い 烟 が所々に見え始めた。然し麓の村は未だ山の陰で、遠い所より 却って暗く、沈んでいた。謙作はふと、今見ている景色に、自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上って来ると、米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気付いたが、それは停止することなく、ちょうど 地じ 引網びきあみ のように 手繰たぐられて来た。地を 嘗なめて過ぎる雲の影にも似ていた。中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、そのまま、平地に眺められるのを 稀有 の事とし、それから謙作は或る感動を受けた。