腫れ物に触られたようにあっと叫ぶ

あっ！と口走る

「あ」とも「が」ともつかない、ひしゃげたような満喜子の声が聞こえた。

仰天したような声を短く口の中であげる

声には驚愕と当惑の調子がこもっている

ひとまわり大きな声を上げる

「あ」と短い声を上げる

みぞおちを打たれたように声も立てられない

（開けてはいけないと感じる不吉なガラスビンを前にして起こる恐怖と好奇心の葛藤）息を詰めたまま金属製のねじ蓋に手をかける。蓋は強く締まっている。このおかしな感じ、まるでガラス壜ではない何かをこじ開けて、口で言えないほど不吉なものを解き放とうとしているような感じはどこからくるのだろう？ 　フレテハイケナイ――カンガエテハイケナイ――。 　声がまた聞こえる。頭のなかではなく、天井のあたりから降ってくる気がする。キョトキョトと周囲を見回す。部屋の空気が重く脈打っている。ベッドも衣類も壁もどくんどくんと脈打っている。蓋にかけた手が震える。震えが背筋を伝い、正座したまま上半身が他愛なく揺れる。《…略…》頭のなかにも部屋のなかにも動悸が響き渡る。嵐のようなその音のほか何も聞こえなくなる。まるで自分自身の心臓の内部にいるみたいだ。視界全体が拍動する。どくんどくんと叫ぶ。イケナイ、イケナイ、イケナイ、イケナイと叫ぶ。頭が割れる！　壜から手を離し、両側から強く 頭蓋 を挟みつける。

『えっ⁉』 　妹の声がひっくりかえり、しゃっくりのような声が聞こえてきた

総てが夢のような気がした。

歯がズキズキする程胸さわがしくなって

夢が覚めたような顔つき

顔色の悪いことといったらまるで死人のようなのですもの。

顔は狼狽と苦痛に歪む