指輪を左手の薬指にはめる

（専業主婦、子なし）今の自分の生活は、島流しと実は大差ないのではないか。こんな継ぎ目のないような生活をしていると、時間だけはたっぷりあるので、ついそんなしょうもないことを考えてしまう。果実のなる木があり、動物たちと好きなだけたわむれる時間があり、島は島でも楽園や極楽の類には違いないが、それでもたまに、無性に自分が元いたところが恋しくなってしまうのである。結婚したばかりの頃は、このままでは自分が駄目になると、島からの脱出をしばしば本気で考えもした。が、すぐに果実の奪い合いや、他人とのいざこざを思い出し、結局はこの極楽を捨てるほどの理由も見つからず、自分がどこか切り離された人間であるかのように感じながら、こうして今もふわふわ極楽の住人をしてしまっている。

結婚することによって私は、自分という玉を隅っこからまた、ちゃんと転がる軌道へと戻したいのでしょう。結婚をすれば人間としてのまっとうな人生の軌道に乗れる、婚姻、妊娠、出産と、こなしていく行事が次々とできて、その点をつなぎ合わせれば人生の見通しもつくし、忙しくて余計なことも考えなくて済む。

女の人生を背負い込む

（つらい結婚生活）一緒に生きていこうとすればするほど摩擦は高まり、互いにすり減っていく。

葉子は倉地の中にすっかりとけ込んだ自分を見いだす

口づけ

どちらの意思というのでもなく後背位で重なり合うとき、十和子は自分が部屋の向こう側からこの交接の一部始終を眺めているような気分になる。我を忘れた者の表情を浮かべて喘ぐ自分を計算し観察している。映画のなかの数限りない情交シーンが入り乱れて浮かぶ。それらの架空のシーンが現実の行為にのりうつり、支配しようとする。

胸はしめつけられるように苦しくなる。でもそれは心地の良い苦しさだ。いくらでも耐えられる苦しさだ。

「なんだか、あんたの下半身、不倫の匂いがするわ」 　サユリは人差し指でティエンの尻の割れ目をなぞり、彼はその指を銃口のように感じた。