（軍艦が）白い波頭の上に海鳥のように身体をゆすっている。

この船は、どこの港へも寄らないで、一直線に大阪へ急いで走っている

船は八日まではふしぎなくらい良好な天候に恵まれました。空は青く晴れ、帆は満足そうに膨れ、飛魚の群れが銀色に光りながら波間をはねるのがいつも見えました。

水が板のような堅い感じを船底にぶつけ、そのたびに船が浮かび上がる

川面すれすれのところで、 人魂 のように頼りなげに上下している黄色い 灯

闇にそびえるなつかしのマンションは、工事の白幕が張られ、外から見えるすべての窓が暗かった。

いびつに切り拓かれた円味のある土地を椰子の林が黒く取巻いている。截（き）り立ったような梢（こずえ）は葉を参差（しんし）していて、井戸の底にいるような位置の私には、草荵（くさしのぶ）の生えた井の口を遙かに覗（のぞ）き上げている趣であった。 　その狭い井の口から広大に眺められる今宵（こよい）の空の、何と色濃いことであろう。それを仰いでいると、情熱の藍壺（あいつぼ）に面を浸し、瑠璃色（るりいろ）の接吻（せっぷん）で苦しく唇を閉じられているようである。夜を一つの大きな眼とすれば、これはその見詰（みつ）める瞳（ひとみ）である。気を取り紛らす燦々（さんさん）たる星がなければ、永くはその凝澄（こりすま）した注視に堪えないだろう。

中世の城のような賑やかな重層感をもって聳え立つ建造物

巨大な要塞が、不吉な白蟻の塔のごとく夕暮れの淡い闇の中にくっきりとそびえ立つ

（巨大な白い壁）視界が白で埋まる。牢獄の壁の前で、囚人のように、白い壁を見上げた。

高架を走る電車が、赤黒い夕陽をそのガラス窓に反射させていた。寒風に乗って 虚空こくう を飛んで行く何かの燃えかすみたいに映った。

バスが発車した。 　がくん、と止まる度にムッとするのは自分がくたびれている証拠である。

陸地がすうっとすべるように近づいたと思うと、船はもう渚ちかく寄っていた。

ハンドルを切るたびに、ダッシュボードに置かれた十円玉が右に左に移動した。

波は丸太棒の上でも一またぎする位の無雑作で、船の片側から他の側へ暴力団のようにあばれ込んできて、流れ出て行った。その瞬間、出口がザアーと滝になった。

この小屋に一人でいることが、まるで深い井戸の底に嵌ったように、ぬき差しならない感覚に陥った。

墓石のような高層ビルがぎっしりと建ち並んで

地面に這いつくばるように立っている沼田の小さい家は、黄色く灯をともしていた。

講堂の時計塔が霧に包まれ、城のようだった。

豪壮な赤レンガのマンション