降りつもる雪のように、ただ過ごしてきた月日

近所の陽来軒へ行き、固い焼きそばを注文する。固い焼きそばは口の天井に突き刺さって食べにくい。《…略…》このひと月、同じことを繰り返している。 　いま睦男に歯向ってくるのは、陽来軒の固い焼きそばだけだった。焼きそばを食べているときだけ生きていて、あとは死骸みたいなものだった。

生活はまるで気力の抜けた平衡を失したものに変わっていた。

弟は最近、寝てばかりいる。学校も休みがちだ。彼の中で少しずつ何かがずれはじめている気配がする。

部屋では、ほとんど文庫本をめくって過ごした。窓の外が夕暮れめいてくると急かされた心地になり、ようやく家を出る。

浮き草のように流れ漂うような暮らしぶり

ここは、時間が流れていないかのように静かだった。どんどん吸い込まれて、抜け出せなくなるような深さがあった。

こんなに生活方針（くらしむき）がたたなく真暗闇になると、ほんとうに泥棒にでもはいりたくなってくる。

夜中の食欲は 悪霊 だ。個人の人格と独立して機能している。 　アルコールも、暴力も、ドラッグも、恋愛も。多分、ダイエットすら。 　 耽溺 はみんな同じだ。 　善悪ではない、生きている。そしてやがて飽きる。飽きるか、取り返しがつかなくなるか。そのどちらか。 　飽きると知っていても波のようにくりかえしやってくる。姿形を変え、浜を洗い、よせてはかえし、静かに、激しく。 　くりかえす、過ぎていく。 　遠い風景。緊張と緩和がもたらす人生の、永遠の海辺。

富裕な家に生まれた息子は、血族のぬるま湯にどっぷりつかって食べる心配をすることもなく芸術家気取りで生きている