軽い鋭い戦きが足の先まで伝わってくるのが自分で分かった

眉を顰めて疑う

そら恐ろしい気持ちが稲妻のように走る

気遣わしく思う

一喜一憂

震えとともに、恐怖によって研ぎ澄まされたマゾヒスティックな快感が湧きあがってくる。

膝が震えた。恐ろしさが体の中からせりあがっていた。

『──俺は幸せなんだ。……』 　彼は先ほど、電気を消した子供部屋で、息子の手を握ったまま唐突に襲われた強烈な幸福感のことを考えた。『俺はこの子の父親なんだ。』と胸の 裡 で呟いて、その一言一言が──「この子」や「父親」といった言葉だけでなく、その関係性を紡ぐ助詞に至るまで！──彼を恍惚とさせた。それは、ほとんど自分自身を見失ってしまいそうなほどの大きな実感だったが、あの平凡なひとときが、それほどまでに特別だったというのは、結局、不安の裏返しであるようにも感じられた。まるで将来、自分の人生の最も幸福な時として、この夜のことをこそ思い出すのではと予感されるほどに。……

不思議な恐怖に似た感情がだんだん胸へ昂（たか）まって来る。その感情は喉（のど）を詰らせるようになって来、身体からは平衝の感じがだんだん失われて来、もしそんな状態が長く続けば、そのある極点から、自分の身体は奈落のようなもののなかへ落ちてゆくのではないかと思われる。

身体が激しく震えはじめて、意味を成さない言葉がとりとめなく口から漏れた。

怖いような心持ち

心が捩（ね）じ切れそうになる。

心配に堪えないような顔

何か背すじへぞっと感じてくる度に、風邪（かぜ）をひきそうな心地がして

心労

肺が胸壁に張り付いたみたいに息苦しい

薄い刃物で背を撫でられるような戦慄

云い知れぬ戦慄が、全身の皮膚を暴風のように這いまわり、駆けめぐるのを感じ初めた。歯の一枚一枚がカチカチと打ち合うのを止める事が出来なくなった。

視界が霧がかかったようにぼんやりとしてくる

額に脂汗がにじみ出る