(黒電話)狭くて急な階段の裏にそれは設置された。 形容しがたい丸み、暗号めいたダイヤル、耳にフィットするよう計算された受話器のカーブ、可愛らしげにクルクルとカールするコード。そうした何もかもがどこかしらおもちゃめいていたが、僕は最初からそれが、ただものでないことにちゃんと気づいていた。 とにかくその黒色は特別だった。一点の濁りもなく、濃密で、圧倒的で、気高くさえあった。両手に載るほどの大きさなのに、何を 企んでいるのか分からないふてぶてしさと思慮深さを併せ持っていた。そこに一つ黒い 塊 があるだけで、階段裏の薄暗さが奥行きを増すようだった。
小川 洋子 / 先回りローバ「口笛の上手な白雪姫」に収録 ページ位置:0% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
先回りローバ 初めて家に電話が引かれたのは、僕が七つの時だった。北向きの玄関から二階へと続く、狭くて急な階段の裏にそれは設置された。 形容しがたい丸み、暗号めいたダイヤル、耳にフィットするよう計算された受話器のカーブ、可愛らしげにクルクルとカールするコード。そうした何もかもがどこかしらおもちゃめいていたが、僕は最初からそれが、ただものでないことにちゃんと気づいていた。 とにかくその黒色は特別だった。一点の濁りもなく、濃密で、圧倒的で、気高くさえあった。両手に載るほどの大きさなのに、何を企んでいるのか分からないふてぶてしさと思慮深さを併せ持っていた。そこに一つ黒い塊があるだけで、階段裏の薄暗さが奥行きを増すようだった。 高さが適切という安易な理由で、それは台所の片隅から運び出した小さな物入れの上に置かれていた。電話の存在感に比べて物入れはあまりにも貧相なうえに、長い間乾物や香辛料を仕舞っていたせいでかび臭さが染みついていた。だから受話器を握......
単語の意味
圧倒(あっとう)
圧倒的(あっとうてき)
思慮深い(しりょぶかい)
思慮(しりょ)
圧倒・・・ひときわ優れた力を持っていること。他よりとても勝っていること。また、その力で相手を押さえつけること。
圧倒的・・・他とは比べ物にならないほど優れていること。
思慮深い・・・先のことを十分考えて判断できるさま。考えや気遣いが深い。
思慮・・・先のことを十分に考えるて判断すること。また、その判断力。いろいろと慎重に考えること。また、その考える力。「思慮の浅い人」
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電話機の表現・描写・類語(電話のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(かかってくるかもしれない)電話というのは置き去りにされた時限爆弾みたいに思える
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
マンションの電話は外国映画のようにベッドの脇に据えてあった。
阿刀田 高 / 捩れた夜「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 amazon
(黒電話)狭くて急な階段の裏にそれは設置された。 形容しがたい丸み、暗号めいたダイヤル、耳にフィットするよう計算された受話器のカーブ、可愛らしげにクルクルとカールするコード。そうした何もかもがどこかしらおもちゃめいていたが、僕は最初からそれが、ただものでないことにちゃんと気づいていた。 とにかくその黒色は特別だった。一点の濁りもなく、濃密で、圧倒的で、気高くさえあった。両手に載るほどの大きさなのに、何を 企んでいるのか分からないふてぶてしさと思慮深さを併せ持っていた。そこに一つ黒い 塊 があるだけで、階段裏の薄暗さが奥行きを増すようだった。
小川 洋子 / 先回りローバ「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
(電話機が)身を伏せている黒い小さな獣のように、彼の眼に映った。
吉行 淳之介 / 闇のなかの祝祭 amazon
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「電話」カテゴリからランダム5
(小布団の敷かれていない電話機)じかに置くと、ベルが鳴ったとき耳障りながさつな音を立てる
向田邦子 / 花の名前「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 amazon
ガスの火を全部とめてすぐに受話器をとった。すみれの消息についてのミュウからの電話じゃないかと思ったからだ。ベルの響きかたにはどこかしら切迫したところがあった。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 amazon
僕はひびの入ったダチョウの卵を温めるみたいな格好で(固定)電話機を胸に抱えてベッドに腰を下ろした
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
(留守電)先方の電話は留守電になっていた。不在を告げる録音テープは既製ではなく、彼女自身が吹き込んだもののようだった。凜としていて、その分、穏やかさに欠ける声──。
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
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