（「酒を飲み続けるうちに、脳が形を変える」と聞き酒を飲み）自分の脳に、酒の成分が沁み込み、スポンジがねじれるように形を変える感覚を覚え

アルコールというサタンからのがれる

短時間であっても酒が切れると、不安になり、焦り、苛立った。

酒の味を食事とともに楽しみ、精神のほどよいほぐれ具合いを良しとする人にアル中は少い。そういう人たちは酒を「好き」ではあるけれど、アル中にはめったにならない。　アル中になるのは、酒を「道具」として考える人間だ。おれもまさにそうだった。この世からどこか別の所へ運ばれていくためのツール、薬理としてのアルコールを選んだ人間がアル中になる。肉体と精神の鎮痛、麻痺、酩酊を渇望する者、そしてそれらの帰結として「死後の不感無覚」を夢見る者、彼等がアル中になる。これはすべてのアディクト（中毒、依存症）に共通して言えることだ。

「私は酔ってるときだけが、生きてるときなんだ」

一時間半ほど歩いただけだったが、電車の移動もあり、心地良くくたびれていた。

泳いでからバイトに行くと疲れて死にそうになる。

跳躍台に登っただけでよろめくにちがいないほど衰弱しきる

時差のもたらす奇妙なしびれのようなものが頭の中心にあった。そのせいもあるのかもしれないが、現実と現実らしく見えるものとの境目がうまく見分けられなかった。

バスが発車した。 　がくん、と止まる度にムッとするのは自分がくたびれている証拠である。