さっき通った牛車 のわだちが長々とうねっているばかり、その車の輪にひかれた、小さな蛇 も、切れ口の肉を青ませながら、始めは尾をぴくぴくやっていたが、いつか脂 ぎった腹を上へ向けて、もう鱗 一つ動かさないようになってしまった。どこもかしこも、炎天のほこりを浴びたこの町の辻で、わずかに一滴の湿りを点じたものがあるとすれば、それはこの蛇 の切れ口から出た、なまぐさい腐れ水ばかりであろう。
芥川龍之介 / 偸盗 ページ位置:1% 作品を確認(青空文庫)
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夏
夏の日差し・光
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前後の文章を含んだ引用
......ここにさえ、その日にかわいた葉を動かそうという風はない。まして、日の光に照りつけられた大路には、あまりの暑さにめげたせいか、人通りも今はひとしきりとだえて、たださっき通った牛車 のわだちが長々とうねっているばかり、その車の輪にひかれた、小さな蛇 も、切れ口の肉を青ませながら、始めは尾をぴくぴくやっていたが、いつか脂 ぎった腹を上へ向けて、もう鱗 一つ動かさないようになってしまった。どこもかしこも、炎天のほこりを浴びたこの町の辻で、わずかに一滴の湿りを点じたものがあるとすれば、それはこの蛇 の切れ口から出た、なまぐさい腐れ水ばかりであろう。 「おばば。」 「……」 老婆は、あわただしくふり返った。見ると、年は六十ばかりであろう。垢 じみた檜皮色 の帷子 に、黄ばんだ髪の毛をたらして、尻 の切れた藁草履 をひきず......
単語の意味
炎天(えんてん)
腹(はら)
蛇(へび)
うねる(うねる)
炎天・・・1.真夏の、焼けるように暑い日差しの天気。また、その空。太陽の日差しが激しく照りつける夏の暑い空。
2.<a href="http://hyogen.info/word/5437854">九天(きゅうてん)</a>で、南の空。
2.<a href="http://hyogen.info/word/5437854">九天(きゅうてん)</a>で、南の空。
腹・・・1.ヒトなど動物の、胴の下半部の前面と考えられる側。背(せ)の反対側の部分。また、その内側にある内蔵。
2.(腹の内面にあるものとして)心。考え。感情。気持ち。また、度量や度胸、気力もいう。
3.物の中央の膨らんだ部分。「指の腹」「銚子の腹」など。
4.背に対して、物の内側の部分。
2.(腹の内面にあるものとして)心。考え。感情。気持ち。また、度量や度胸、気力もいう。
3.物の中央の膨らんだ部分。「指の腹」「銚子の腹」など。
4.背に対して、物の内側の部分。
蛇・・・ひょろ長い筒状で足がないという独特の姿の爬虫類の総称。鱗(うろこ)でおおわれた体をくねらせて進む。先が二分した長い舌を持つ。脱皮を繰り返し、毒を持つものも多い。不吉なもの、執念深いものとして嫌悪の対象となる場合が多いが、一方で、神やその使いとして信仰する場合もある。
うねる・・・大きく緩やかに曲がりくねる。大きく緩やかに上がったり下がったりする。また、そのような状態が続くことや、そのような状態がとどめ難い勢いで攻めてくること。
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夏の暑さが、熱いお茶を飲むような快感
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夏の海が銀紙を貼り付けたように鈍く、そのくせ眼底までくらませるような強い光を跳ね返してくる
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どウンと一つ音がして、あっと思や、消えっちまう
吉川英治 / 銀河まつり
目に映る何もかもが初夏のまぶしさをたたえて、勢いづいていた。人々のむきだしの腕、風に揺れる木々の緑。葉先に光る陽光、空気の 匂い、何もかもがもう止まらない。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
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