一つずしりと揺れて、徐（おもむろ）に汽車は動き出した。一本ずつ眼をくぎって行くプラットフォオムの柱、置き忘れたような運水車、それから車内の誰かに祝儀の礼を云っている赤帽――そう云うすべては、窓へ吹きつける煤煙（ばいえん）の中に、未練がましく後（うしろ）へ倒れて行った。

乗り込んでみるとマッチ箱のような汽車だ。

（新幹線の車両をつなぐ）扉が静かに、素早く開く様は、昔、映画で観た宇宙船の内部を思わせた。

車両の揺れが、相変わらず、木村を小突くようだ。忍耐の鎖を破るように唆してくる。

汽車はだんだんゆるやかになって、まもなくプラットホームの一列（れつ）の電燈（でんとう）が、うつくしく規則（きそく）正しくあらわれ、それがだんだん大きくなってひろがって、二人はちょうど白鳥停車場（ていしゃじょう）の、大きな時計（とけい）の前に来てとまりました。

地下の闇にレールの軋む音が轟き、対向車両と擦れ違う際には、軽い衝撃が人々の肩を揺すった。

轟々（ごうごう）と地ひびきをたててお召列車が通る。

車の列は思い出したように時折東へと流れ

ヘッドライトの中にふわふわと浮かび上がっていた細かな水滴が、本格的な雨に成長してフロントガラスを打ち始めた

（ドッグファイト）二機は互いに距離を詰めていく。俺は宮部の後ろにつこうと大きく左に旋回した。奴も同じように旋回している。ぐんぐん距離が詰まり互いに相手の後方に取りついた形になった。巴戦というやつだ。英語ではドッグファイトというらしい。二匹の犬が互いに相手の尻尾に 嚙 みつこうとぐるぐる回るところから名付けられたそうな。 　互いに翼を傾けて、急旋回を続けた。すりばちを滑るように二機の零戦が回っていく。