えも言われぬバターの芳香が口中に広がる

（ていねいにオムレツを作る）卵をゆっくりふわっとさせながら、ていねいに焼いてくれた。まるでこの一枚が人の命をつなぐんだ、と言いたいくらい、不器用にていねいに。

これ以上、泡立てようがないというほど膨れあがったオムレツ

皿の上のいかにも健康的に膨れあがったオムレツに手を着けた。ほどよく焼き色がついていて、二つ折りにされたその合わせ目からは、泡立った卵がほとんど敗北感を抱かせるほど傲岸に溢れ出している。海に向かって迫り来る溶岩のような趣だった。

オムレツといってもずいぶんいろいろな種類がある。 日本では一般に、ハムや玉ねぎのみじん切りをいためて入れたり、ひき肉のいためたのを入れるようだが、フランスでは、チーズを入れたオムレツ・オ・フロマージュ、わけぎのような青いフィンゼルブを入れたオムレツ・オ・フィンゼルブ、じゃがいものゆでた角切りを入れたオムレツ・オ・パルマンティエ、ラム酒をおとしたオムレツ・オ・ラムなど、いろいろ違った種類がある。

色調は実に神秘的だ。輪切りにしたのを観察すると、卵白は不思議な黒青色で、光沢があって寒天状。卵黄は外層が暗緑色、中層は黄緑、内層は深緑。一個のピータンの中に宇宙の神秘みたいなのを感じた。

フォークの先から、半熟の卵が黄色い血液のようにぽたぽたと落ちる。

卵の調理性には、気泡性、乳化性、凝固性がある

だしが生きてる

熟練の職人たちが一つ一つ手作業で焼き上げている自家製の伊達巻