（蔦は）金朱のいろの錦の蓑をかけ連ねたように美しくなった。

（蔦は）まるで私たちが昔かけた房附きの毛糸の肩掛けのよう

蜘蛛手形（くもでがた）に蔦（つた）の枝が匍（は）っている。

ぽちぽちと紅色（べにいろ）の新芽が、無数に蔦の蔓（つる）から生えていた。それは爬虫類（はちゅうるい）の掌のようでもあれば、吹きつけた火の粉のようでもある。

（イギリス風の住宅建築は）建築当初は武蔵野の田畑の青味に対照して、けばけばしく見え、それが却（かえ）ってこの棲家を孤独な淋しい普請のようにも見させたが、武蔵野の土から生えた蔦が次第にくすみ行く赤煉瓦の壁を取り巻き、平地の草の色をこの棲家の上にも配色すると、大地に根を下ろした大巌（おおいわ）のように一種の威容を見せて来た。

赤と白との石竹の花が、漲（みなぎ）った灯（あかり）を吸うているように目立って見えた。

濁った朝焼けの空を、樹々の梢がやたらにかきまわして騒ぐ

煩いほどに枝葉が繁茂した街路樹

畑には刷毛（はけ）の先でかすったように麦や小麦でほのかに青味を保っている。

狭い庭に雑然と植わっている本は茂り放題に茂って、長いこと床屋に行かない頭のようになった。