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目に映るものはそこにたまたまある現実の風景でしかなくなり、聞こえてくるのは現実の音だけだった。あんなに心の中で豊かに息づいていたはずの世界は、乳色の霧にまかれたように、その輪郭すら見えなくなっていた。
小池真理子「愛するということ (幻冬舎文庫)」に収録 ページ位置:86% 作品を確認(amazon)
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喪失感(大切なものを失う)
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前後の文章を含んだ引用
......しい、と思っていたのに、人生は美しいどころか空疎だった。あれほど日常のひとこまひとこまが輝くばかりの意味をもっていたはずなのに、もう何の意味もなくなっていた。 目に映るものはそこにたまたまある現実の風景でしかなくなり、聞こえてくるのは現実の音だけだった。あんなに心の中で豊かに息づいていたはずの世界は、乳色の霧にまかれたように、その輪郭すら見えなくなっていた。 それでもわたしは生き続けていた。食べて飲んで眠って、その単純な馬鹿げた繰り返しを続けることから目を背けずにいさえすれば、かろうじて生き永らえることができるはず......
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乳色(ちちいろ)
風景(ふうけい)
乳色・・・牛乳のような色。少し濁りのあるような白。乳白色。
風景・・・自然の景色。目の前に広がる眺め。その場の情景。
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