熱くてモウモウと湯気の立つお椀の中は実だくさん。大根、人参、里芋、ごぼう、じゃがいも、コンニャク、玉ねぎなどの小片がひしめき合って色とりどり。

実と実の隙間の所々に豚の脂がキラキラと光った味噌汁が顔をのぞかせている

最初の一口がしみじみおいしい。しみじみ幸せを感じる。やや大きめの器に入れた豚汁をかかえ、ふーふー吹きながら飲んでいると心が癒される。

脂身の脂はそのほとんどが汁に溶け込んで、汁がうまくなる一方で、脂身はむしろ鯨の脂を茹でたのに似て淡白になる

味噌汁と豚の脂が、どこでどうからみあったのかクリーミー

私は眼の前の会席膳（かいせきぜん）の食品の鮮やかさに強て念頭を拭（ぬぐ）った。 　季節をさまで先走らない、そして実質的に食べられるものを親切に選んであった。特に女の眼を悦（よろこ）ばせそうな冬菜（ふゆな）は、形のまま青く茹（ゆ）で上げ、小鳥は肉を磨（す）り潰（つぶし）して、枇杷（びわ）の花の形に練り慥えてあった。そして、皿の肴（さかな）には、霰（あられ）の降るときは水面に浮き跳ねて悦ぶという琵琶湖の杜父魚（かくぶつ）を使って空揚げにしてあるなぞは、料理人になかなか油断のならない用意あるがことを懐（おも）わせた。

とろろ飯の前に、いろいろと出る。 　会席のまねごとであるが、〔待月楼〕のような料亭になると、こうしなくては算盤が合わぬことになる。

海外の旅先でまず欲しくなる日本食は味噌汁。それも清らかな豆腐の白が輪郭だけ味噌のブラウンに染まって浮かぶ赤だしである。

野菜を主体とした季節感に満ちた料理

白味噌ベースの合わせ味噌に、モロヘイヤ、ながいも、おくらの体にやさしいねばねば野菜がたっぷり入ったお味噌汁。野菜のとろみと味噌の旨味は、クセになるような抜群の相性。