砂時計が無慈悲に滴り落ちていく

時間の流れをはっきり感じている。今が過ぎ、また今が来、すぐ今が来てまた過ぎていく。

太陽が少しずつその定められた軌道を移動していく

木々の間を群れとなって移ろう鳥のように、空気がゆっくりと流れる

時間が重い鎖をひきずるようにして通過する

月は相変わらず寡黙だった。

どこまでも寡黙に、頑なな石の心をもって天空のその場所に腰を据えていた。

月の輝きを無心に眺めているうちに、天吾の中に古代から受け継がれてきた記憶のようなものが呼び起こされていった。人類が火や道具や言語を手に入れる前から、月は変わることなく人々の味方だった。それは天与の灯火として暗黒の世界をときに明るく照らし、人々の恐怖を和らげてくれた。その満ち欠けは時間の観念を人々に与えてくれた。月のそのような無償の慈悲に対する感謝の念は、おおかたの場所から闇が放逐されてしまった現在でも、人類の遺伝子の中に強く刷り込まれているようだった。集合的な温かい記憶として。

研ぎ出したような月

ちょうど大星に接近して土耳古（トルコ）の旗のようになっている新月

（電話の時報）時報を聞くのが僕は好きだった。そこはどこまでも果てしのない、何ものにも乱される恐れのない、安定した世界だった。たとえ僕がクシャミをしても、お姉さんは迷惑そうな様子さえ見せず、ひたすら時刻を知らせ続ける。一秒ごとに刻まれる歯車の船の 舳先 に立ち、次々と誕生する新たな時刻を、まっさらな海面に向かって宣告する。大変な重労働だと思われるのに、口調は滑らかだ。

ほとんどまばたきするほどの時間だったが、停止したフィルムの場面の中にいるような気がする

少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

もうずいぶんとバスに揺られていた気がするけれど、時計を見ると十五分と経っていない。

そしてこの時はもう実母の死も純然たる過去に送り込まれてしまった

くちなしの花が七月の月明かりに青白く浮かんでいる

銃は月光に 濡れて黒く光った。

小石を投げたら届きそうなくらい空が低く見える

鈍い青色をしている空

剃刀の尖（さき）ででも切ッたような薄い月