いつのまにか雪が降り始めていた。滑走路のライトがあたる部分にだけ斜めに、白い雪が落ちていくのが見える。それだけ切り取られた、まるで芝居の書き割りのような雪景色だった。

大看板が、小降りになった雪の中で煙っていた。

積もっている雪の肌が軽石のようにざらつく

雪は莟（つぼみ）を持った沈丁花（じんちょうげ）の下に都会の煤煙（ばいえん）によごれていた。それは何か僕の心に傷（いた）ましさを与える眺めだった。

ひなたと日陰がちょうど視界を半分ずつに区切り、ひなたの部分だけ、雪がまばゆい。

家がぐらぐらと揺れた。地面からおどり上がった雪が二三度はずみを取っておいて、どっと一気に天に向かって、謀反（むほん）でもするように、降りかかって行く

霰はあとからあとへ黒い屋根瓦を打ってはころころ転がった。トタン屋根を撲（う）つ音。やつでの葉を弾く音。枯草に消える音。やがてサアーというそれが世間に降っている音がきこえ出す

八重桜のごとき大粒の雪がほとほとと降る

雪が街の音を吸い込みながらいつまでもいつまでも降り続けていた。音というものがまるで聞こえなかった。

雪は静かに降り続いていた。それは僕のコートに落ちて、しばらく戸惑い、そして消えていった。