キイをさしこんでまわしてみると、エンジンはすぐに気持の良い音を立てた。

辺りをどよもすようにエンジン音が響き渡る

彼のホンダ５００ｃｃのポクポクという不吉な排気音は五百メートルくらい先からはっきりわかった。

（エンスト）溜め息をつくようにエンジンが止まる

遠くで、マフラーをとりはずしたオートバイの音が聞こえた。いらだたしげにエンジンを吹かしている。

飛び去る景色の何もかもが速く、新鮮に映る。

船酔と過労で、ゲッソリやせた

終電車はもうとうに終わっている。駅舎もホームも照明が落とされて暗い。駅周辺の商店も、住宅も、明かりの漏れている建物は少なく、林や畑はもとより夜の闇そのものみたいに真っ暗、というか真っ黒に映る。 　そのなかをまばらな街灯が繫いで示す道は細く頼りなく曲がりくねり、今は寝静まっているこの街の人々の住まいと住まいを結びながら闇に突っ込んだように途絶えたり、明るいオレンジ色の街灯とともに北側を太く力強く走る国道に届いたりした。 　その国道こそ時折トラックなどが走ってきて去っていき、動きの乏しいこの町の夜景が、時間の止まった静止画ではないことを気づかせてもくれるのだったが、南側の畑が広がる間の細い道路を移動する自動車の光があると、むしろ時間と空間を超え来た物体を夜空に見ているような錯覚に陥った。

豚の鳴くようなホーンが響く

あれは起重機ね、荷物が空へ上って行ったろう。