顔を上げ、視線の先には赤信号がありました。それから、首を右に向けたので、トラックが来ているのも認識していたはずです。にもかかわらず、最後の気力をふりしぼるかのように、勢いを付けて、体を前に放り出すように飛び出していったのです。あっ、と思った時には間に合いませんでした。

彼女の唇の両端から血がたらたらと流れて来た。《…略…》彼女は舌を咬（か）み切（き）って自殺した。

呼び鈴を押しても返事がなく、不審を抱いた二人は鍵のかかっていなかった玄関から家に上がったところ、居間で倒れている清三を発見したのだった。そばのテーブルには、遺書とともに、《ニッカリンＴ》というラベルの貼られた瓶が転がっていたという。それが果樹などに用いられる農薬で、数年前に製造・販売禁止になった劇薬だということを重藤も知っていた。

絶望し切って、首でも吊ってしまいかねない。

心を病んで、自殺のように死んだ。

（死後の肉体の変化が描かれた絵）皆殆ど同じ姿勢の寝姿で、只違うのは、初めから終りへかけて姿が変って行っている事である。 　すなわち巻頭の第一番に現われて私を驚かした絵は、死んでから間もないらしい雪白（せっぱく）の肌で、頬や耳には臙脂（えんじ）の色がなまめかしく浮かんでいる。

「死」がついに、この老人を捕えた

まだ生きているという事実を確かめたいために、重い眶（まぶた）を開いて、じっとともし火の光を見た。

ひどくあっけない、朽ち木の折れるような死

自殺ってやつは、あとに残る者へ自分の中身をそっくり預けて、脱殼になることじやないか。