京の町も、わずかの間 に、つめたい光の鍍金 をかけられて、今では、越 の国の人が見るという蜃気楼 のように、塔の九輪や伽藍 の屋根を、おぼつかなく光らせながら、ほのかな明るみと影との中に、あらゆる物象を、ぼんやりとつつんでいる。町をめぐる山々も、日中のほとぼりを返しているのであろう、おのずから頂きをおぼろげな月明かりにぼかしながら、どの峰も、じっと物を思ってでもいるように、うすい靄 の上から、静かに荒廃した町を見おろしている
芥川龍之介 / 偸盗 ページ位置:70% 作品を確認(青空文庫)
この表現が分類されたカテゴリ
月の光・月明かり
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......茂川にかかっている橋が、その白々 とした水光 りの上に、いつか暗く浮き上がって来た。 ひとり加茂川ばかりではない。さっきまでは、目の下に黒く死人 のにおいを蔵していた京の町も、わずかの間 に、つめたい光の鍍金 をかけられて、今では、越 の国の人が見るという蜃気楼 のように、塔の九輪や伽藍 の屋根を、おぼつかなく光らせながら、ほのかな明るみと影との中に、あらゆる物象を、ぼんやりとつつんでいる。町をめぐる山々も、日中のほとぼりを返しているのであろう、おのずから頂きをおぼろげな月明かりにぼかしながら、どの峰も、じっと物を思ってでもいるように、うすい靄 の上から、静かに荒廃した町を見おろしている――と、その中で、かすかに凌霄花 のにおいがした。門の左右を埋 める藪 のところどころから、簇々 とつるをのばしたその花が、今では古びた門の柱にまといついて、ずり落ちそ......
単語の意味
朧げ(おぼろげ)
峰・峯・嶺(みね)
荒廃(こうはい)
伽藍(がらん)
月明かり(つきあかり)
京(けい・きょう)
朧げ・・・ボーっとしてはっきりしない。不確かなさま。
荒廃・・・役に立たないほどボロボロな状態にあること。
伽藍・・・寺院や僧房の総称。
月明かり・・・月光。月の光。また、月の光で明るいこと。
京・・・1.数の単位のひとつ。一兆の一万倍。古くは、一兆の10倍を指した。
2.都のこと。京都や東京の略。
2.都のこと。京都や東京の略。
ここに意味を表示
月の光・月明かりの表現・描写・類語(空・中空のカテゴリ)の一覧 ランダム5
林の梢に砕けた月の光が薄暗い水に落ちてきらめく
国木田 独歩 / 武蔵野 amazon
このカテゴリを全部見る
「空・中空」カテゴリからランダム5
煙のように薄白い雲が形もなく流れて星を舐(ねぶ)る
内田 百けん / 冥途・旅順入城式 amazon
空には、もう細い月が、うらうらと靡 いた霞 の中に、まるで爪の痕 かと思う程、かすかに白く浮んでいる
芥川龍之介 / 杜子春
同じカテゴリの表現一覧
空・中空 の表現の一覧
風景表現 大カテゴリ