暑い日ざかりの道の電柱などへ、子母沢邸への道順をしめす〔梅谷家〕と書かれた黒框の紙が貼られてあった。 　子母沢寛――本名は梅谷松太郎。

入れかわり立ちかわりやってくる弔問客

火葬場に運ばれ、焼かれてしまう。煙となって空に立ち上り、雲に混じる。そして雨となって地表に降り、どこかの草を育てる。何を語ることもない、名もなき草だ。

故人の一生を賛美するために人々が結集させた力

（人が死んだ後の手続きは）あっけないほど簡単だった。省察というほどのものは求められない。自動車の廃車届けを出すのと同じだ。

多くの輸送トラックのあいだに、まるで無骨なサイの群れに紛れ込んでしまったしなやかなレイヨウのように、銀色のメルセデス・ベンツ・クーペが一台混じっていた。

道路の流れはまだ滞っていた。苛立ったのか、前方の車からクラクションが鳴った。遠吠えに反応する犬のように、別の車からもクラクションが発せられる。

花嫁はすでに席に着いていて、えらく神妙な顔をしていた。 花婿 は手元を見つめて、やはり神妙にしていた。私はふたりの神妙でない顔をたくさん知っているのでおかしかった。まるで観光地の記念撮影みたいに、首だけ出して画面にはまっている人達のようだった。

すさまじい機関銃声が起った。それはこっちからの掩護（えんご）射撃と、敵からのと錯綜し、雹（ひょう）の降るように（入り乱れた。）

二十分で行ける道程が、土曜日曜には二時間もかかった