痛みを伴った熱気が蜂のように襲い掛かってくる

炎が部屋のドアを舐め始める

炎が廊下の絨毯や壁紙を飲み込みながら迫ってくる

僕は姿勢を低くした。そうすることで煙が弱まってくる。目線を床に近づければ近づけるほど炎が灯りとなってほんのりと視界が利いてくるようになった。そして目の痛みも和らぎ、少しだけ呼吸も楽になった。

立ち込めた黒煙がまとわりついてくる

もう、嘘でもいいから謝ってしまおうか……。 　言葉の凶器に打ちのめされ、すべてがどうでもよくなるような敗北感があった。

《静岡県警の上層部、不正に関与か》 　紙面に太字の活字が躍っている。さっきからすべての全国紙を調べたものの、同様の内容を掲載したものはなかった。ただ一紙、駿河日報だけが報じているスクープだった。

バイクが乗用車に引っかけられ、三十八歳の測量技師が脳挫傷で死んだ。

炎の津波に呑まれる

はじめはブレーキ音だった。アスファルトをタイヤが滑った。ずいぶん長い間タイヤが鳴っている気がした。助手席の京子の身体が勢いよく浮いた。 　そして、どん、と衝突音がした。なすすべもない。バンパーが潰れる感触があった。 　シートベルトが肩に食い込む。浮いた身体はバウンドして、座席に跳ね返った。 　あっという間のことだった。頭の中が揺れる。突然の痛みと驚きに、怒りが瞬時に湧いた。気を失うほどではなかったが、京子は言葉も出なかった。 　しばらくしてから、ようやく運転席の青山の様子が気になる。

屋台骨が火の中へ、紙細工のようにヒラヒラと呑まれて消える

空に溶けた煙

暗い中に、ガスの火がおとぎ話の火のようにもえている。

火柱のような赤い炎

焚き火が柔和な音を立てて燃える