(通いなれた女の部屋)この臭いと懶惰が俺の生活に融け込み、同色の色合いみたいに適応を遂げたのである。恰も、動物が己れの穴の温みと臭気とに懶く屈んで眼を閉じているようなものであった。或は、俺の落伍的な怠惰が、その温みを女とこの部屋に染したのかもしれなかった。
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 ページ位置:45% 作品を確認(amazon)
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倦怠期
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前後の文章を含んだ引用
......ら、うちわで俺を煽いだ。来ないことを知ってでもいるような口吻だった。それから、その云い方にも草いきれのような生臭さと、気だるさがあった。 これだ、と俺は考えた。この臭いと懶惰が俺の生活に融け込み、同色の色合いみたいに適応を遂げたのである。恰も、動物が己れの穴の温みと臭気とに懶く屈んで眼を閉じているようなものであった。或は、俺の落伍的な怠惰が、その温みを女とこの部屋に染したのかもしれなかった。しかし、それは絶えず俺を苛立たせる結果をもっていた。 女はゆるくうちわを動かしている。俺は薄べりに背中をつけたまま、することがない。門倉は明日の朝、九州に行くだ......
単語の意味
懶惰・嬾惰(らんだ)
怠惰(たいだ)
懶惰・嬾惰・・・勉強や仕事などをしないで怠けること。また、そのさま。
※読み誤って「らいだ」とも読まれる。
※読み誤って「らいだ」とも読まれる。
怠惰・・・だらだらと、無駄な時間をすごすこと。怠けて、だらしのないこと。また、そのさま。
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倦怠期の表現・描写・類語(恋愛のカテゴリ)の一覧 ランダム5
城戸と妻の香織との間で知らぬ間に日常となってしまった会話の欠乏は、端から見れば、ありきたりな〝倦怠期〟の風景に過ぎなかった。それは、コップに注がれた一杯の水のように静かに澄んでいて、どちらかが、さっと一口で飲み干してしまえば、仕舞いになるようなもののはずだったが、あまり長く置きっぱなしにしていたせいで、そもそももう飲めないのではないかという感じがしていた。 そして、そのコップに、一欠片 の氷が落ちたのだった。──そう、毒でも何でもない、ただの氷で、それはほどなく融けてなくなったが、彼らの沈黙は、確かに以前より冷たくなり、幾分かは飛沫が跳ね、水の面は揺れて、その記憶はいつまでも残ることとなった。
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon
女との間に醱酵した陰湿な温もり
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
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「恋愛」カテゴリからランダム5
わたしはミュウがほしいの。とても強く。わたしは彼女を手に入れたい。自分のものにしたい。そうしないわけにはいかないのよ。選択肢というものはそこにはまったく存在しないの。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 amazon
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