（自閉症専門のカウンセラー）こういう仕事にひどく疲れるときもある。 　患者を本当に助けたかったら、患者にシンクロしたり、共鳴したりしてはいけない。でも強烈にただ、同調を求めてくる患者に波長を合わせないようにするのは苦しい。腹ぺこのときに目の前にごちそうがあっても気にしないようにする、それと同じくらい難しい。 　向こうは命がけでシンクロだけを望んでいるのだから。エネルギーのすべてをその一時しのぎに注いでくるのだ。 　だから 喩えて言うと、プロのウエイターになったように意識を保つ。腹がへっていてもウエイターが食べ物を運びながらむらむらしていては仕方がない。そんなふうにそらす。 　自分が何をしたいのかを忘れないようにする。治したいんだろう？　治ってもらいたいんだろう？　その基本に常に意識を合わせる。適当にでも何でも、合わせる。とりこまれないようにする。 　自分が手伝おうとしているもののほうに協力体制がない、そのことに時々、ものすごーく疲れる。

（触診）医者は、あばら骨の下のあたりに手刀のような形に揃えた指先をぐいっとめり込ませる。

不可解なウイルスの登場は、医学者に恐怖よりも高揚感をもたらす

医者は患者を必要以上に喜ばせることを決して言わない。後のショックを小さくするためにも、期待を抱かせない。

聴診器の先を睨みつけている医者の眉間に深い皺が寄り始める。その皺は刻々と深くなっていく。

その小説は、本当の心を持たない若者たちを描いた高度に抽象的で非常に濃密な内容で、本人に会う前に真由にそれを読まされた私は、こわくてこんな人には会いたくないと思った。狂人ではないかと思ったのだ。しかし会ってみると彼はごく普通の青年だった。そして私は、この人があの濃密な小説を 紡ぎ出すのには、彼の脳の中で大変な時間の凝縮が行われているに違いない、と思った。そういうあり方の才能だった。

一つの事件を担当すると、捜査員は同じ土地に幾度となく足を運ぶことになる。

夕闇の中に診察着をきた一人の男が夕顔のように白く近よってくる

彼はプロフェッショナルであり、任務遂行のための最短距離を進む訓練を受けている。

ルームサービスを取った。 　サンドイッチとジュースと、サラダと卵料理とベーコンとコーヒーの、私がこの世で一番好きなタイプの朝ごはんだった。