瞬き始めた空に花火が咲いた。一つ、二つ。九時から予定されている本格的な打ち上げの、前座みたいな花火だった。赤一色だけの火の花は、すぐに萎れて消えた。

東の夜空に花火があがった。初めに幾つかの大輪が咲いて、もうそれっきりかと思ったころ、こんどは赤や青のしだれ柳が、ひゅうひゅうと音をたてて散っていった。

（遠くに見える花火は）どんな手品師も敵（かな）わないような立派な手品だったような気がした。

舞台とは反対の方面で、しきりに花火を揚げる。花火の中から風船が出た。帝国万歳とかいてある。天主の松の上をふわふわ飛んで営所のなかへ落ちた。次にぽんと音がして、黒い団子が、しゅっと秋の空を射抜くように上がると、それがおれの頭の上で、ぽかりと割れて、青い煙が傘の骨のように開いてだらだらと空中に流れ込んだ。風船がまた上がった。

乾いた音が遠くに聞こえる。花火の空砲の音だ。夏祭りを告げる音だ。

松も新しい緑にかわって、草も木も青い焔（ほのお）のようになった。

ひらいた相（すがた）が上品でも、音響が何里四方をゆるがしても、また人工の星が宇宙の星を連れて地へ下がって来ても

炎とも電気とも星や月や太陽ともちがう、これまで見たことのない色と質感の光だった。輪郭があやふやで、触れたときの温度を想像しにくい。冷たいようでも、火傷しそうでもある。そういう光が、ふわふわ漂ったり静止したりしながら、田んぼのあちこちに灯っている。夜を少しだけ照らしだす。

夏の海が銀紙を貼り付けたように鈍く、そのくせ眼底までくらませるような強い光を跳ね返してくる

夏の勢いにあふれた、すごい青空だった。まぶしくて、そこいらじゅう光って見えた。こういう日が何日も続いて、本当の暑さがやって来る。好きな季節だ。

空は鏡のように明るい

赤く焼けて長く横に引いた幾すじもの西の空の雲の波を眺めていた。

空には刷毛でひいたような白い雲が幾筋か流れ

月の光に心を奪われていると、不可能なことなどないように思えてくる

幾筋かの雲がとても高いところに浮かんでいた。それはあまりにも遠く、あまりにも高く、人間の営みとは関わりを持たないきわめて抽象的な考察のようにも見えた。