（わが子の）頭に手を置いて、「いいかげんにしろ！」と怒鳴りつけた。 　ただ、手を置いたのではなかった。言い聞かせるようなその素振りで、彼は恐らくは頭を叩いたのだった。そして、咄嗟にそのことに気づき、半ば無意識にそれを隠そうとして、頭から手を離さなかった。

歯が折れたのだろう。鮮血がゴボゴボと溢れ出ている。黒いマスクをしているように鼻から下は地に濡れてドロドロだ。

持っていた肩掛けのバッグを肩から外して思いきり振った。

男の左腕を折る。小枝でも短くするように乾いた音をさせて。

（平手打ち）ほっぺたにピシャリと一発食らわす

肩で突っかかるように向かっていく

一突きにおれの胸へ刺（さ）した。何か腥（なまぐさ）い塊（かたまり）がおれの口へこみ上げて来る。が、苦しみは少しもない。ただ胸が冷たくなると、一層あたりがしんとしてしまった。ああ、何と云う静かさだろう。この山陰（やまかげ）の藪の空には、小鳥一羽囀（さえず）りに来ない。ただ杉や竹の杪（うら）に、寂しい日影が漂（ただよ）っている。日影が、――それも次第に薄れて来る。――もう杉や竹も見えない。おれはそこに倒れたまま、深い静かさに包まれている。

ひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり

服を通過し皮膚に刺さり、骨を削るのが腕に伝わる。

切りつけられ、わずかに刃先を紙一重で遁（のが）れる