車のフロント・ガラスの内側に赤い血糊がハイビスカスの花のように散っていた。

はじめはブレーキ音だった。アスファルトをタイヤが滑った。ずいぶん長い間タイヤが鳴っている気がした。助手席の京子の身体が勢いよく浮いた。 　そして、どん、と衝突音がした。なすすべもない。バンパーが潰れる感触があった。 　シートベルトが肩に食い込む。浮いた身体はバウンドして、座席に跳ね返った。 　あっという間のことだった。頭の中が揺れる。突然の痛みと驚きに、怒りが瞬時に湧いた。気を失うほどではなかったが、京子は言葉も出なかった。 　しばらくしてから、ようやく運転席の青山の様子が気になる。

材木に、拍子を食って、一なぐりされると、頭のつぶれた人間は、蚤（のみ）の子よりも軽く、海の中へたたき込まれた。

千年杉は、幹の左半分を乗りあげる形で大岩に激突し、弾かれた。前脚を上げた暴れ馬みたいに、ほぼ垂直に大きく跳ねあがる。

倒れたバイクの車輪はゆっくりと回っていて、エンジン部から流れ出した黒いオイルが路面に伝わって下水の中に滴り落ちている

貨物車の駆け抜ける音が、音楽のように響いた。

バスがエンジンをかけて身震いを始めた

地下鉄が外に出た。千代田線は地上に上がる。「ぷはあ」と久遠は地下の息苦しさを吐き出した。

繰り返し電車は駅に停車し、また夜の中に滑り出す。

舟はみえずに（櫓（ろ）の）音だけがなにかの鳥の鳴くように、獣の仔の乳をもとめる声のようにきこえる。

屋台骨が火の中へ、紙細工のようにヒラヒラと呑まれて消える

闇の底を焦がして燃え盛る火の帯

（犯罪者を死刑にするのではなく更生させるのが大事という考え）社会全体を一つの大きな生き物として考えますとね、悪いところを切り捨てていっても強く健康な生き物にはならないですよ。生命力が一番大事なんです。生命力とは自浄能力であり再生能力であると。犯罪者の更生もそういうことなんですね。切り捨てればいい社会になるかというと、そうじゃない。それはある意味、不健全なんです

転覆した二輛、それに続く脱線した三輛、線路上の七輛。

何やら怒号のような男の声と、地に響くような重い物音が、どこかにこもって聞こえた。 　何だ……？ 　尋恵は思わず身をすくめた。それくらい物騒な気配が神経をざわざわと刺激した。 　音は数秒続いて止んだ。それからも断続的にこもった物音がしたが、やがてそれも聞こえなくなった。