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転変に富んだその夜を回想していた。《…略…》ほんとうにそれらは回想という言葉にふさわしいくらい一晩の経験としては豊富すぎる内容であった。
梶井基次郎 / 冬の蠅 ページ位置:83% 作品を確認(青空文庫)
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忙しい、慌しい毎日
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前後の文章を含んだ引用
......とながら聴耳をたてたが、相不変あいかわらず曖昧あいまいな言葉が同じように鈍い調子で響くばかりで、やがて女はあきらめたようすでいなくなってしまった。  私は静かな眠った港を前にしながら転変に富んだその夜を回想していた。三里はとっくに歩いたと思っているのにいくらしてもおしまいにならなかった山道や、谿たにのなかに発電所が見えはじめ、しばらくすると谿の底を提灯ちょうちんが二つ三つ閑かな夜の挨拶を《…略…》いないと思い込み、元気を出したのにみごと当てがはずれたことや、やっと温泉に着いて凍え疲れた四肢を村人の混み合っている共同湯で温めたときの異様な安堵あんどの感情や、――ほんとうにそれらは回想という言葉にふさわしいくらい一晩の経験としては豊富すぎる内容であった。しかもそれでおしまいというのではなかった。私がやっと腹をふくらして人心つくかつかぬに、私の充たされない残酷な欲望はもう一度私に夜の道へ出ることを命令したのであった......
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