割れた硝子屑（ガラスくず）のように鋭い波と風

吹き落ちる気配（けはい）も見えないあらしは、果てもなく海上を吹きまくる。目に見える限りはただ波頭ばかりだ。

（山のような大波）見る見るもり上った山の、恐ろしく大きな斜面に玩具（おもちゃ）の船程に、ちょこんと横にのッかることがあった。と、船はのめったように、ドッ、ドッと、その谷底へ落ちこんでゆく。今にも、沈む！　が、谷底にはすぐ別な波がむくむくと起（た）ち上ってきて、ドシンと船の横腹と体当りをする。

陸地に近づくと波はなお怒る。鬣（たてがみ）を風になびかして暴（あ）れる野馬のように、波頭は波の穂になり、波の穂は飛沫（ひまつ）になり、飛沫はしぶきになり、しぶきは霧になり、霧はまたまっ白い波になって、息もつかせずあとからあとからと山すそに襲いかかって行く。山すその岩壁に打ちつけた波は、煮えくりかえった熱湯をぶちつけたように、湯げのような白沫（しらあわ）を五丈も六丈も高く飛ばして、反（そ）りを打ちながら海の中にどっとくずれ込む。

波の山は、いきなり、獲物に襲いかかる猛獣のように思いきり背延びをした。と思うと、波頭は吹きつける風にそりを打って鞺（どう）とくずれこんだ。

水面が鏡のように光る

山裾（やますそ）の川が杉の梢から流れ出るように見える

くたびれたように海が黙る

海で泳ぐものは一人もない。波の間に枕などが浮いていると恐ろしいもののような気がした。

空が秋らしく青空に澄む日には、海はその青よりやや温い深青に映った。

殆（ほと）んど海の中に入りッ切りになっている青黒い円窓

押し寄せ渦巻き引きずる流れ

どーっと見さかいもなく吹きまく風の中

大自然の鉄槌を受ける

地震で地面が揺れるので、海上で波にもまれた者のように吐き気をもよおす