ある人Ａの夢や希望や将来を、ある人Ｂがすべて奪った

会えば瞬く間に夜が過ぎる。時間と欲望とに駆り立てられるように抱き合い、抱き合えばそのたびに何かが完結しないもどかしさが十和子のなかに鬱積していく。その鬱積が水島への思慕をさらに烈しいものにする。

あざれた恋の火傷の痕

（兄妹でデート）ご夫婦ですか？　と聞かれる度に、公園の老夫婦を見かける度に、気まずくなっちゃうのよ。逃亡者みたいに。

不倫の後半（？）、私は自分の部屋に彼が来て、コートをハンガーにかけて、ご飯を食べ、ビールを飲み、一緒に寝て、朝帰っていって、洗い物や寝巻きや並んだ 枕 だけが残る感じに疲れてしまい、妹と２人で暮らすことにした。

（運命）人生の傾向

いいことも悪いこともそれなりにある

僕はこの製本屋の綴（と）じ違えに、――その又綴じ違えた頁を開いたことに運命の指の動いているのを感じ、やむを得ずそこを読んで行った。

彼は偶然なこと故に、 却ってそれが何かの故意のよう考えられるのだ。

これは悲しくも私たちの一人一人が肩の上に背負わなければならない不条理だ。

何と言っても幼い両人は、今罪の神に翻弄（ほんろう）せられつつある

（結婚して）目の前には家族を背負って歩く働き蜂の、単調な人生が細く、遠く続いている

自分に迫る運命を男らしく肩に担い上げる

橇（そり）で雪の坂道を下るような、スイスイした楽な暮し方

十月半ばの日曜日は穏やかな天候に恵まれて、どこもかしこも長閑さに溢れていた

ぴかぴかの髪も、おろしたてみたいに見える帽子も服も、すくなくとも今日だけは、俺に見せるためのものだったのかもしれない。

不意に柔かく永く一つの唇が彼女の唇に押し当てられた。全神経が目醒めた。佃の存在が灼きつくように甦った。

色目を使う

私は女を抱いた。他になにが出来るだろう。 　しかし、女は身を固くし、 抗いはしなかったが、灯りを消して私に近づいたのは自分ではないといいたがっているように動かなかった。 　細い肩を抱き、その髪に手を触れた。 　急がなかった。女の胸の深い芯のようなところに熱いものがあり、それがゆっくり 熔けて行くという気がした。 　額に唇を寄せ、 頰 に移し、ややのけぞらせて首に舌を触れた。耳にも触れた。 　無言の時がすぎ、女は深く息をついた。

夢にみるほど恋いこがれて