（イギリス風の住宅建築は）建築当初は武蔵野の田畑の青味に対照して、けばけばしく見え、それが却（かえ）ってこの棲家を孤独な淋しい普請のようにも見させたが、武蔵野の土から生えた蔦が次第にくすみ行く赤煉瓦の壁を取り巻き、平地の草の色をこの棲家の上にも配色すると、大地に根を下ろした大巌（おおいわ）のように一種の威容を見せて来た。

都会だったら「豪邸」と称されるな、というぐらい大きかった。

塀の上からはみ出している百日紅（さるすべり）の淡紅色の花

破屋（あばらや）というのではないが、とりわけて見ようというような立派な家では勿論（もちろん）なかった。

家全体が木管楽器となって悲しげな曲を奏でる

窓という窓が、丁寧に磨きあがられたように輝いている

つただらけの壁。鉄の黒くて重い門、門灯は切れっ放しで、割れたガラスの破片をじゃりじゃり踏み越えて、枯葉に埋もれた石段を登ると、玄関へたどり着く。手入れをしていない庭はジャングルと化し、猫がたくさん住んでいた。

風格のある大きな屋敷

ビルとは名ばかりの、裏通りのモルタル二階建てで、下に家主の美容院

首を上にあげれば街のどこからでも見える高層ホテル