マサルの全身は酸素を渇望し、習慣づいた鍛錬によりほとんど無意識下に置かれつつあるものの、息を吐くときだけ、彼の頭脳は横隔膜に指令を出した。二度短く息を吐き、吸気に関しては横隔膜の自然な動きに任せる。この、吸気の際、横隔膜をリラックスさせるだけで自動的に肺が新鮮な空気で満たされる、という生理科学の神秘を実感すると呼気まで自然の動きに任せようとしてしまいがちになるが、大抵ろくなことにはならなかった。明るい橋の上で呼気のコントロールを止めてみると、十秒も経たないうちに酸素の補給系統は乱れ、マサルは危うく一九一センチメートルの巨体をのたうちまわらせそうになった。なんでもかんでも、自然の法則に委ねればよいという考えは、間違いだった。
羽田 圭介 / 一丁目一番地「ミート・ザ・ビート (文春文庫)」に収録 ページ位置:1% 作品を確認(amazon)
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呼吸が乱れる
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前後の文章を含んだ引用
......ルを挟んで右側から、車の通過音が途切れることはなく、タイヤとアスファルトの織り成すグリップノイズとマサルの呼吸音は、周波数というか音の質としてかなり似ていた。 マサルの全身は酸素を渇望し、習慣づいた鍛錬によりほとんど無意識下に置かれつつあるものの、息を吐くときだけ、彼の頭脳は横隔膜に指令を出した。二度短く息を吐き、吸気に関しては横隔膜の自然な動きに任せる。この、吸気の際、横隔膜をリラックスさせるだけで自動的に肺が新鮮な空気で満たされる、という生理科学の神秘を実感すると呼気まで自然の動きに任せようとしてしまいがちになるが、大抵ろくなことにはならなかった。明るい橋の上で呼気のコントロールを止めてみると、十秒も経たないうちに酸素の補給系統は乱れ、マサルは危うく一九一センチメートルの巨体をのたうちまわらせそうになった。なんでもかんでも、自然の法則に委ねればよいという考えは、間違いだった。 欄干を挟んで左側にはただただ暗闇が広がるだけであったが、それでもこの橋がたしかに川の上にかかっているという真実を、暗闇そのものが逆説的に証明しているようであっ......
単語の意味
渇望(かつぼう)
呼気(こき)
渇望・・・のどが渇いた気に水を欲しがるように、心から望むこと。
呼気・・・口や鼻から吐き出す息⇔吸気(きゅうき)。
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呼吸するの表現・描写・類語(呼吸のカテゴリ)の一覧 ランダム5
犬のように口で息をしながら
安部 公房 / 他人の顔 amazon
胸から咽喉へぐるぐるっと音を立ててこみ上げ、ばたりと止まったぜんまい仕掛けのような巻き上げる呼吸
円地 文子 / 朱を奪うもの amazon
うちひしがれた獣のように、荒あらしい呼吸に胸を起伏させる
大江 健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
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呼吸が乱れるの表現・描写・類語(呼吸のカテゴリ)の一覧 ランダム5
酸素を求めて口が開き、肺がおおげさに上下する。
綿矢 りさ / 仲良くしようか「勝手にふるえてろ (文春文庫)」に収録 amazon
盛夏の犬のようにハアハアと舌を出した。
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
雪見さん……と呼ぼうとしたが、荒い呼吸が邪魔をして、うまく声が出なかった。
雫井 脩介「火の粉 (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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「呼吸」カテゴリからランダム5
風邪をひいたけちな小動物みたいに、ぜいぜい喉を鳴らす
安部 公房 / 第四間氷期 amazon
鼻と口を塞がれたような苦しさから逃れたくて、私は必死に深呼吸をしながら
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
ふいごのように息を吸ったり吐いたりする
石森 延男 / コタンの口笛 第2部 amazon
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