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ある光景が蘇ったのはそのときだった。あまりにも一瞬のことで、今、蘇ったどこかの光景が、いったいいつの、どこで見た光景なのか、分からないほどだった。光代は思わず目を閉じて、一瞬蘇った光景を再現した。必死に目を閉じていると、またぼんやりと、その光景が浮かび上がってくる。  どこ? ここ、どこ?  光代は目を閉じたまま、心の中で呟いた。ただ、浮かび上がってきた光景は一枚の写真のように、いくら別の場所を見ようとしても、それ以上に広がらない。  目の前に若い女の子が二人立っている。こちらに背を向けて、楽しそうに笑い合っている。その向こうには年配の女性の背中が見える。女性は壁に向かって何か話している。いや、違う。壁じゃなくて、どこかの窓口。透明のボードの向こうで切符を売る男性の顔がある。  どこ? どこ?  光代はまた心の中で呟いた。必死に目を閉じると、窓口の上に貼られた路線図が見える。 「あ!」  光代は思わず声を上げそうになった。見えたのは、バスの路線図だった。自分が立っている場所は、佐賀と博多を結ぶ長距離バスの切符売り場だったのだ。  それが分かった瞬間、静止していた光景がとつぜん音と共に動き出す。
吉田修一「悪人」に収録 ページ位置:77% 作品を確認(amazon)
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フラッシュバック・走馬灯のように蘇る記憶
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前後の文章を含んだ引用
......か自分がとんでもない間違いをしているような気がして、必死に祐一の手を握りしめた。何かが終わろうとしているのだ。今、ここで何かが決定的に終わろうとしているのだ。 ある光景が蘇ったのはそのときだった。あまりにも一瞬のことで、今、蘇ったどこかの光景が、いったいいつの、どこで見た光景なのか、分からないほどだった。光代は思わず目を閉じて、一瞬蘇った光景を再現した。必死に目を閉じていると、またぼんやりと、その光景が浮かび上がってくる。 どこ? ここ、どこ? 光代は目を閉じたまま、心の中で呟いた。ただ、浮かび上がってきた光景は一枚の写真のように、いくら別の場所を見ようとしても、それ以上に広がらない。 目の前に若い女の子が二人立っている。こちらに背を向けて、楽しそうに笑い合っている。その向こうには年配の女性の背中が見える。女性は壁に向かって何か話している。いや、違う。壁じゃなくて、どこかの窓口。透明のボードの向こうで切符を売る男性の顔がある。 どこ? どこ? 光代はまた心の中で呟いた。必死に目を閉じると、窓口の上に貼られた路線図が見える。「あ!」 光代は思わず声を上げそうになった。見えたのは、バスの路線図だった。自分が立っている場所は、佐賀と博多を結ぶ長距離バスの切符売り場だったのだ。 それが分かった瞬間、静止していた光景がとつぜん音と共に動き出す。背後でバスの到着を知らせるアナウンスが聞こえる。背後に立っている若い女の子たちの笑い声がする。切符を買ったおばさんが、財布をしまいながら窓口を離れ、到着したバス......
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光景(こうけい)
背中(せなか)
光景・・・1.目に前に広がる景色。そこに見える景色や物事のありさま。景色。様子。
2.日の光。
背中・・・背の中央。背骨のあたり。動物の胴体の背骨のある側。胸や腹と反対の面で、両肩の間から腰のあたりまでの部分。背(せ)。背面。
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