外は凍りつくような寒夜である。 （こういうときには、ぜひとも蕎麦を食べなくては……） 　と、おもい、近くの浜町の〔藪〕へおもむき、鴨南ばんで熱い酒をのんだ。酒と蕎麦の味が、このような寒夜には、腸へしみとおるようにうまいものだ。

茹で上がったそばを夏さながらザルにあけて、上から一気に冷水をかけてざくざく洗う。素早く冷やすことでシコシコプリプリ締まったものになるらしい。

冷たい蕎麦の横綱が「ざる」だとしたら、「かけ」が温かい方の横綱

そばが酒の友として好ましいのはだし汁の付け加減で自分で味を濃くも薄くもできるところにある。もちろんそばの香り、味も酒によく合う。だから酒の肴としては、盛りか、ざるが適してる。

箸で持ち上げただけで切れてしまうほどのびた蕎麦

魚の風味が突出してもいないし、他の旨味成分と見事に融合して、混沌として複雑で豊かな味を作り出している

（鴨南そば）ネギの焦げ目が香ばしい匂いを立てている。鴨肉がレモン色の脂をにじませて、つゆに浮いている。

名古屋のきしめんによく似たのにイタリアのラザーニがある。きしめんは花がつおをふりかけ、うすいだし汁であっさりたべたり、みそで煮こんでたべるが、このラザーニは、チーズ、バタ、トマトソースであえて、こってりしたグラタンにしてたべ、もとは似ていても、たべ方がずいぶん違ってしまう。

（その冷し中華が口に合ったのは）麺の黄色と鳴戸の桃色ときゅうりの緑が、まるで三原色の見本みたいに見えなかったせいもあった。三原色ふうの甘たるさもなかった。

汁に軽くつけてざる蕎麦をすすると、鰹節のほんのりとした香りが口いっぱいに広がる