記憶の中をあわただしく掻きさがした。

（ここ数年の人生を振り返って紙に書き出す）文字にしてながめてみると不思議だった。 　その紙をテーブルの上に置いておいたら、それはあたりまえだけれどテーブルの上の四角い白い単なる切れ端で、丸めて捨てても、飛んでいってしまっても何の意味もない。 　なのにその紙が愛しく思えたり、そこにまるでマイクロフィルムのようにこの数年のめくるめく情報が満ちあふれては流れでて空間を染めていくように思える。 　心は白紙を映像に変える。 　私はその映像のなかをさまよっていつのまにか、ここにきた。

（朦朧とした意識の状態から記憶がよみがえる）横たわっていると、記憶というものが少しずつ細い流れとして 蘇ってきて、懐かしい岸辺に流れつく舟のように私をかすかにつなぎとめるのだ。

何でだっけ……と思った。思い出すのに少し時間がかかることがあった。ちょうどフロッピーからデーターを呼び出すときみたいに。

（昔のことを思い出そうとする）時の流れを暗示するような、軽い沈黙がしばしあった。

度忘れ

あの人は誰だったんだろう。とまた思った。あの、どこか 懐かしい……遠くで、知っている、見たことがある……あの面影。

つかみどころがなくぼやけていく記憶の頼りなさ

記憶は細切れで頼りなく、どうつなぎ合わせてもぼんやりしたままだった。

すべてが見覚えのある風景だった。もう会うこともないと思っていたいとこと、この懐かしい風景の中を一緒に歩いていることが不思議だった。いとこがほんの小さな男の子だった頃の記憶と、学生寮の記憶が、水彩絵の具のように滑らかに混じり合っていた。

すべての情景と感触は薄い膜がかかったように漠然として、離れたところにある。

（心の闇）彼の心の一部はまだ、夜よりもずっと暗い、取り返しのつかない深い所にひとりでとどまっていて、その暗黒には誰もたどり着けないのだ。

ざわめきが、ぱたりと潮騒を聞かなくなった後の空虚のように耳もとに残る

回想を影のごとく脳裡に引く

一度見たら頭にずっと残る