春の霞が薄く被衣のようにかかる

海鳥のかたちも霧にかすんで、今の今、空と水がひとりでに、その軽く浮かぶ身体を、スッポリとしぼり出したように見えた。

標識はまるで誰かが息でも吹きかけてくれたかのように、一瞬だけ切れた霧の中から現れた。

霧が地の底から湧くように窪地から這い上がる

風が霧の流れを幕のようにはためかせて傍若無人に吹きちぎっていく。

紙切れは雨にふやけて貧相に波打っていた。

横殴りの雨がガラス戸に叩きつける音で目が覚めた

空からぽつり、と水が落ちてきた。

濡れ鼠のようになっていた。

（夜の畑の）トマトは雨で濡れて暗闇の中で唯一赤い。クリスマスに樅（もみ）の木や窓辺に飾られる小さな電球のように、トマトは（車のハザードランプの明かりで）点滅してる。火花を散らしながら揺れる無数の赤い実は、まるで暗い深海に泳ぐ発光する牙を持つ魚のようだ。