陽炎（かげろう）のなかにトタン屋根もぎらぎらと漣（さざなみ）のようにさわいでいる。

裏手は、屋根が一階まで仲びていた。それは、大きな鳥が半ば羽根をひろげて、広い芝生の片隅に下りたような印象を与えた。

うす明るい空にそむいて、羅生門（らしょうもん）の高い甍（いらか）が、寂然（せきぜん）と大路を見おろしているばかり

最上階の踊り場から屋上に続く、ビルの壁に埋め込まれた垂直のハシゴ

はるかかなたの木立ちの頭に、小山のように高く出ているのは寺院の家根だ。

ひびが家を分けるように入っていた。

垣根には目かくし用に様々な種類の灌木やカイヅカイブキが効果的に配され、そのすきまからは手入れのいきとどいた庭が広がっているのが見えた。

古木のように年月を超えても変わらぬ佇まい

戦前の品川へ、二度ほど足を運んだことがあるが、貸座敷（遊女屋）、料理屋、茶屋などが軒を連ね、江戸時代の繁昌ぶりが、まだ名残りをとどめていた。 　大正の大震災にも、昭和の戦災にも品川は焼け残ったので、十数年前に久しぶりで、ゆっくりと品川を歩いたときも、大きな宿場町の微かな匂いが、裏道にただよっていた

小さな花屋を見つけたことがあった。そこには外国の小さな花が小さなブーケになって、たくさん並んでいた。