大旅館の広間で繰り広げられる、深夜までの狂乱のカラオケ合戦の余波が、畳や壁のどこかから響いてくるような部屋

（ホテルの一部がうらぶれて博物館のようになっていて、）暗い廊下の奥に羊の剥製やら、埃だらけの毛皮やら、黴臭い資料やら、茶色く変色した古い写真やらが積みかさねてある（略、）果たされざる想いが乾いた泥のように隅々にしっかりとこびりついているようなホテル

旅行案内にも載っていないような小さな民宿

ホテルは新式の建築で、道路に面した壁は、高い城壁のように窓のないものだった。

（宿の）女将 は、 「まあ、えらい雪どすなあ」と言い、さも 無精 たらしく、 猫 のような感じで 起って来た。

(フランス料理のメニュー表を見る)あゆみは腕きき弁護士が重要な契約書を読むときのような鋭い目つきで、メニューに書かれている内容を隅々まで二回ずつ読んだ何か大事なことを見落としていないか、どこかに隠された巧妙な抜け穴があるのではないか。そこに書かれている様々な条件や条項を頭の中で検討し、それのもたらす結果について熟考した。利益と損失を細かくはかりにかけた。

人間の世の中に大切なのは、物事を持続させることなのだが、いまはすべてにわたって、不安と焦燥が持続をゆるさぬ。

（古びたバー）音楽が流れていないと店内はまるで海底のように静まりかえっていて、声が大きく響くような感じがした。

ひとりでいる校舎は、真昼でも夜のプールサイドに似ている。暗く光る廊下、水のようにあり余っている酸素の 匂い。

（城跡）城山の石畳を歩いていた。ここに城閣はない。苔蒸した石垣だけが残っている。