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僕は目を閉じたまま黙って肯いた。 しばらくのあいだあたりには物音ひとつ聞こえなくなった。鳩も ねじまき鳥 もどこかへ消えてしまっていた。風もなく、車の排気音さえ聞こえなかった。そのあいだ僕はずっと電話の女のことを考えていた。 僕は本当にその女のことを知っていたのだろうか? でも僕にはその女を思いだすことができなかった。まるでキリコの絵の中の情景のように、女の影だけが路上を横切って長くのびていた。そしてその実体は僕の意識の領域をはるか遠く離れたところにあった。僕の耳もとでいつまでもベルが鳴りつづけていた。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 ページ位置:80% 作品を確認(amazon)
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眠りに落ちる・寝つく
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前後の文章を含んだ引用
......た。娘がコーラのグラスを振ると、氷がまるでカウベルのような音を立てた。「眠かったら眠ってていいわよ。猫の姿が見えたら起してあげるから」と娘が小さな声で言った。 僕は目を閉じたまま黙って肯いた。 しばらくのあいだあたりには物音ひとつ聞こえなくなった。鳩もねじまき鳥もどこかへ消えてしまっていた。風もなく、車の排気音さえ聞こえなかった。そのあいだ僕はずっと電話の女のことを考えていた。僕は本当にその女のことを知っていたのだろうか? でも僕にはその女を思いだすことができなかった。まるでキリコの絵の中の情景のように、女の影だけが路上を横切って長くのびていた。そしてその実体は僕の意識の領域をはるか遠く離れたところにあった。僕の耳もとでいつまでもベルが鳴りつづけていた。「ねえ、寝ちゃった?」と娘が聞こえるか聞こえないかといったような声で僕に訊ねた。「寝てない」と僕は答えた。「もっと近くに寄っていい? 小さな声でしゃべったほうが......
単語の意味
情景・状景(じょうけい)
耳元・耳許(みみもと)
鳩・鴿(はと)
暫く・姑く・須臾(しばらく)
情景・状景・・・人の心を動かす風景や場面。
耳元・耳許・・・耳の根もと。耳のそば。耳のすぐ近く。耳許の「許」は、「近く」「そば」を意味する。
鳩・鴿・・・ハト科の鳥の総称。ほとんど全世界に分布し、人家の近くにも住む中形の鳥。目は丸く、嘴(くちばし)は短くて厚みがあり、体はずんぐりしていて胸は張る。翼の力が強く、飛翔力が大きい。帰巣本能を利用して、遠距離通信にも用いられる。また、平和の象徴とされる。種類が多く、およそ300品種ほど。
暫く・姑く・須臾・・・1.長いと感じるほどではないが、すぐともいえないほどの時間。ちょっとの間。一時的。
2.ちょっと待った!
2.ちょっと待った!
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眠りに落ちるほんの一瞬だけ、孤独も明日への倦怠もすべて忘れて、身体がスッと軽くなって、布団の感触が気持ち良い、眠れるだけで幸せと思える瞬間がくる。手足がぽかぽか暖まり、許された、解放されたと思える伸びやかなあの瞬間が訪れるのを、布団を顎まで掻き寄せて待つ。
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
蒲団の中が温まってくると、竜夫はにわかに疲れを感じて目を閉じた。
宮本 輝 / 螢川「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
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