懐石料理は、本膳料理を簡素に表したものといわれている。しかし、現在の懐石料理は、上品なもの、贅を尽くしたものであれば、懐石料理と名づけて出す料亭も多くなってきた。

日本人を魅了してきたとろけるような懐石料理

懐石料理は敷居が高い

懐石料理は何よりもまず季節感を重んじる。そのため、床のかけ物、花、道具類、敷物まで、手落ちなくととのえられた席の中で、美しく盛られた料理を目で楽しむことができる。

とろろ飯の前に、いろいろと出る。 　会席のまねごとであるが、〔待月楼〕のような料亭になると、こうしなくては算盤が合わぬことになる。

三段重の御節は確かに見事なものだった。見た目もさることながら、詰め合わされた一品一品に気迫のようなものが感じられる。

千六本に切った大根の腰の辺りを箸でかき寄せると、大根たちはしなだれかかるように寄せ集められ、ついでに油揚げも寄せ集められ、汁を滴らせながら口の中へ運ばれる。さくさくした大根の歯ざわりとややミルクっぽい味の油揚げの油にまみれた味噌汁が滲み出てくる。大根の甘さと、そこに加わる味噌の塩気。

味噌は嫌いなほうではない。白よりは赤味噌のコクが性に合っている。

私は、吸い物椀を手に持った時の、掌（てのひら）が受ける汁の重みの感覚と、生あたたかい温味（ぬくみ）とを何よりも好む。それは生れたての赤ん坊のぶよぶよした肉を体を支えたような感じでもある。

母の心を籠（こ）めた弁当