宇宙間にただ二人きり居るような心持

私の美に対する情熱が娘に対する情熱と胎（たい）を共にした双生児だったことが確かに信じられる

伸子の胸には再び、火の塊りのようなものがこみ上げた。できることなら一飛びに、彼の手許へころがりこみ、このがむしゃらな熱情を、同じように激しい燃える彼の手で捕え、締めつけて欲しい

自分の恋人が同じ朝と夜、同じ時間の流れの中に同時にいると思うだけで、いつもの夕方も甘く見える。電話をしても、のびのびと話せる。 　夜が静かで長く感じられる。 　ふだん淋しいと思いたくなくて無理して 麻痺 させていた感覚が、ひとつひとつ開いていくのが目に見えるようだ。 　季節の陽を受けた花のように、静かに、確実に。

彼と会うようになってから、心が一日一日と少女に戻っていくような実感があった。

結婚はそもそも欺瞞を孕（はら）んだ幻想

煩悩（ぼんのう）の迷（まよい）

この上ない快楽の刻む苦悶の表情を顔に浮かべ

狂乱のごとき愛撫に没入する

小旅行を企てたのは、男と別れたからだ。悲しかったからではなくて、どの男と別れても悲しくも辛くもないことに漠然とした焦燥を感じたからだ。一人旅の旅情にひたれば、少しは感傷が湧くかと思ったのだ。