その小説は、本当の心を持たない若者たちを描いた高度に抽象的で非常に濃密な内容で、本人に会う前に真由にそれを読まされた私は、こわくてこんな人には会いたくないと思った。狂人ではないかと思ったのだ。しかし会ってみると彼はごく普通の青年だった。そして私は、この人があの濃密な小説を 紡ぎ出すのには、彼の脳の中で大変な時間の凝縮が行われているに違いない、と思った。そういうあり方の才能だった。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 ページ位置:3% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......前に長編の本を一冊出したきりで、その後、本は出ていない。しかし、珍しいことにその一冊はある種の人々にとってまるで古典のような感じで、今も静かに売れ続けていた。 その小説は、本当の心を持たない若者たちを描いた高度に抽象的で非常に濃密な内容で、本人に会う前に真由にそれを読まされた私は、こわくてこんな人には会いたくないと思った。狂人ではないかと思ったのだ。しかし会ってみると彼はごく普通の青年だった。そして私は、この人があの濃密な小説を紡ぎ出すのには、彼の脳の中で大変な時間の凝縮が行われているに違いない、と思った。そういうあり方の才能だった。 真由は引退してから定職につかず、アルバイトをしながら彼と同棲していた。あまりにも長い間それが続いたので、私も母も、彼らが結婚していないことすら忘れてしまってい......
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小説の表現・描写・類語(道具・家具のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(小説家)小説家は、意識的・無意識的を問わず、いつもどこかで小説のモデルとなるような人物を捜し求めている。《…略…》モデルとして 相応しいのは、その人物が、極めて例外的でありながら、人間の、或いは時代の一種の 典型 と思われる何かを備えている場合で、フィクションによって、彼または彼女は、象徴の次元にまで醇化されなければならない。
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon
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作家・脚本家の表現・描写・類語(職業・仕事のカテゴリ)の一覧 ランダム5
旅慣れている彼も目を輝かせていた。この人は常にこうやって感激しているのだろう。と私は思った。それをパンを発酵させるように寝かせて、ふくらませてやがて別の出口から文章にする。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
人間の悩みを原料として、いつかそれを見事に再生産なさる
岡本かの子 / 河明り
物語を書き継ぐ忍従の生活
岡本かの子 / 河明り
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「職業・仕事」カテゴリからランダム5
昼間はどぶ鼠となってエリート社員の演技をし
筒井 康隆 / 夢の木坂分岐点 amazon
チップとは何でしょうかね。お乞食さんと少しも変らない。
林芙美子 / 新版 放浪記
「道具・家具」カテゴリからランダム5
(マチスの美術館)私はその静かな空間にあふれる色彩を見て、マチスの心のかけらを永遠に体と心に写し取ったような気さえした。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon
カーペットは厚く柔らかく、極北の島の太古の苔を思わせた。それは人々の足音を、蓄積された時間の中に吸収していった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
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