薬を打ってグッタリ

ラリっている

戸棚から銀色の箱に入った細い注射器を取り出した。茶色の小瓶を灯りに透かして液体の量を確かめると、規定分だけ注射器に吸わせて、身を屈めて太股に打った。

モルヒネを注射しました。不安も、焦燥（しょうそう）も、はにかみも、綺麗（きれい）に除去せられ、自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして、その注射をすると自分は、からだの衰弱も忘れて、漫画の仕事に精が出て、自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。 　一日一本のつもりが、二本になり、四本になった頃には、自分はもうそれが無ければ、仕事が出来ないようになっていました。

香炉にハシシを投げ込む。紫色の煙が上がりそれを吸う。

（燃え上がる空母）世の中にこれほどの炎があるのかと思われるほどの巨大な火の海に包まれていました。その勢いは凄まじく、百メートル以上離れてもその熱波を感じました。 　しかし「赤城」は沈みませんでした。魚雷攻撃を受けたわけではなく、爆弾ですから、艦自体は燃え上がっていますが、沈むことはありません。だがそれはかえって断末魔の苦しみが長引く地獄のように見えました。

車のフロント・ガラスの内側に赤い血糊がハイビスカスの花のように散っていた。

（ドラッグの幻覚）ビルの屋上から飛び降りる女が頭に浮かんできた。顔は恐怖に歪んで遠去かる空を見ている。手と足を泳ぐ時のように動かしてもう一度上へ上がりたいと踠（もが）いている。結んでいた髪は途中で解け水藻のように頭の上で揺れている、大きくなる街路樹や車や人間、風圧で捩（ねじ）曲がった唇や鼻、まるで暑い真夏に汗をびっしり掻いて見る不安な夢のような光景が頭に浮かんでくる。黒白のスローモーション・フィルムのような、ビルから落ちた女の動き。

薬物中毒者たちの根城

バイクが乗用車に引っかけられ、三十八歳の測量技師が脳挫傷で死んだ。