随分長い廊下

病棟の白い一直線の廊下

雨音に暗く閉ざされた朝の廊下

ワックスで磨かれた廊下

寄宿舎のように長い廊下が一本、横に貫いていて

午後四時をまだ過ぎたばかりなのに大部屋の中はうす暗く、ミツ人名は窓から洩れる僅かな微光を探しながら本の頁をめくった。

玄関はしんとしていた。必要以上にしんとしていた。 　それから僕は足もとの赤いパンプスの存在に気づいた。見慣れた赤いパンプスだった。それは泥だらけのテニス・シューズと安物のビーチ・サンダルにはさまれて、季節はずれのクリスマス・プレゼントみたいに見えた。その上に細かいちりのような沈黙が浮かんでいた。

なんの飾りもない、修道院の内部のような裸な室内がかえってすがすがしく見えた。

トンネルのような廊下

廊下のはずれから月がさして、はるか向こうがきわどく明るい。